2007.3.23
企業不正にどう立ち向かうか ワールドコムで不正を行った者が手口を公開!
昨年、企業不正に関するシンポジウムに参加してきました。そこで企業環境に関する興味深い内容を拝聴してきましたので、ここでご紹介させて頂きます。
当日のシンポジウムは2部構成でした。
第一部は、記念講演として、組織の統制環境と不正リスク要因と題して、CFE(公認不正検査士)である甘粕潔氏の講演とビデオの上映でした。特にビデオの内容が凄いものでした。それは、AICPA(米国公認会計士協会)とACFE(米国不正検査士協会)が共同作成したもので、アメリカ合衆国で史上最大の倒産劇を演じたMCIワールドコムの関係者で債権管理・回収担当者であったウォルト・パブロ氏本人が出演したもので、不正を行うに至った経緯と動機、不正の手口の公開、不正を犯していた時期に自己の行動を正当化する言動についてでした。
彼はエリート大学を修了した後、通信会社の勤務を経て、若くしてワールドコムで売掛債権管理・回収責任者として重要なポストに就きます。しかし、そこで彼を待っていたものは、数値目標達成のプレッシャーと高い業績を挙げることにのみ腐心している役員たちでした。すなわち、ワールドコムの役員たちは、数値の改ざんに対して全く無頓着であるとともに、逆にそれを奨励する行為を行っていたのです。そういった上司の姿を見ているうちに、彼自身もストックオプションで実績に応じた報酬を得ていたことから、不正に対する意識が薄れ、自分も同様に不正に手を染めるとともに、それを上司が黙認するとともに、更に良い数値を出すように指導していったというものでした。
パブロ氏は、売掛債権の回収に当たり、支払わない顧客がいることで自分の業務が増加しているのだとして、顧客を悪者に仕立てるとともに、顧客に責任を押し付け、自らの不正の行動を正当化していました。そして、多忙な仕事に対して自分の報酬が報われていないとして、支払の滞っている顧客に話を持ちかけて、ケイマン諸島にある自分の会社に安い金額で債務の引受けをさせていました。ワールドコムの債権はケイマンにある自分の会社に譲渡されたわけですが、実質上、不良債権化しています。それを隠したまま、ケイマンの自分の会社の口座からお金を引き出してひととき裕福な生活をしていたのです。
これらの一連の不正について、良い数値を挙げることのみに腐心している経営陣の思量と監視体制の無機能化、さらには不正を奨励する企業風土があったことが不正の発生する原因となっていました。今回のシンポジウムの第一部では、この経営トップの姿勢(Tone at the Top)が不正の防止に不可欠であると強調されていました。
なお、ビデオについては、AICPAのHPで観る事が出来ますので、是非ご参照下さい。
http://antifraud.aicpa.org/Resources/Fraud+and+the+Tone+at+the+Top.htm
ビデオを観る場合、ネットの通信速度に応じて高速版と低速版とがあります。低速版は高速版の画面を小さくしたものです。
第1部のこうした内容を受けて、第二部では、コーディネーターに青山学院大学会計プロフェッション研究科教授であり、企業会計審議会内部統制部会長でもある八田進二氏を迎えるとともに、安冨潔氏(慶応義塾大学法務研究科教授・弁護士)、影山正氏(クロールインターナショナル・不正調査の実務家)、片山英木氏(みすず監査法人理事長・公認会計士)、武井一浩氏(弁護士・米国NY州弁護士)の4名をパネラーに迎えて行われました。
テーマは「企業不正にどう立ち向かうか」ということで、不正に関して、学者・実務家・会計士・弁護士の立場でそれぞれ意見が出されました。
安冨氏からは、不正に対する社会の監視の目が厳しくなったことと、それに答え得る組織体制の必要性が述べられました。
影山氏からは、不正の調査は増加傾向にあり、単なるコンプライアンスだけでは不正はなくならず、法令を遵守することに対して組織全体で同意し参加することが必要であることと、不正が発生した場合に不正を行った者に応じて対応を変えるのではなく、一貫性を持って処分することが組織にとっては重要であることが述べられました。
片山氏からは、従来のような性善説に基づく監査でなく、専門家としての懐疑心をもって望んでいること、予測不可能な監査を実施ていること、海外の制度を日本にそのまま取り入れるような方策は、必ずしも適切ではないことが述べられました。
武井氏からは、D社の異物混入事件の判決において経営者が過去の不祥事について公表する責任を負っている事が示されたこと、J社の利益供与事件の判決において総会屋の強迫に対して経営陣が利益供与を行ったことについて一・二審は経営者に無罪の判決を下したのに対し、最高裁では有罪判決を下したことが述べられました。そして、組織の中で人は法的に弱くなってしまうことを「性弱説」と名付け、企業の利害関係者が多様化している現在、経営トップが知らなかったでは済まされなくなっていることから、早期に経営トップに情報を伝える仕組みづくりが必要であると述べました。
コーディネーターの八田教授からは、日本の国の中でコミュニケーションが不足してきていること、性悪説で監査を行うのは、日本には不適合と思われること、組織内部で構成員が互いを疑うことなくコンプライアンス体制を構築すべきこと、その意味で今回のシンポジウムは今後、企業不正を防止する取組みを行う提起となれば幸いであると述べられ、締めくくられました。