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当番日誌

2005.12.06

リング4分の3

  10月18日から1週間、2年ぶりの海外旅行で、パリとロンドンを訪ねてきました。

  お目当ては、ワーグナーのオペラ「ニーベルングの指輪(リング)」。
  この作品、「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」という四部作で、世界各地でサイクル上演されていますが、今回の旅行では、パリのシャトレ座で「ラインの黄金」「ワルキューレ」、ロンドンのロイヤル・オペラで「ジークフリート」を見てきました(四部作のうち3つですから「リング4分の3」です)。

  ここ数年はワーグナーのオペラにはまっていて、実は、2年前にもドイツに行って「指輪」以外のオペラ「ローエングリン」「さまよえるオランダ人」「タンホイザー」を鑑賞してきました。

  この時は、ワーグナーのメッカ、バイロイト祝祭劇場でしたが、最初の日に劇場へ行く送迎バスに乗るためにホテルのロビーに降りたとたん、周囲の人が全員、フォーマルな服装だったのにびっくりしました。
  ジャケット姿の私は、少し不安になって、たまたま近くに居た外国人の方に、「私のような服装でも大丈夫ですよね?」と思わず(英語で)訊いてしまったほどです。
  小柄で丸顔のその方は、「勿論問題ありません」と笑顔で答えてくれ、その後の幕間の休憩ですれ違った際にも「問題なかったでしょ!」と笑顔で声をかけてくれました。

  さて、今回のパリではシャトレ座の2つの公演を挟んで、パリ・オペラ座(新しいバスティーユのほうです)でヒンデミットというマイナーなドイツ人作曲家の「カルディヤック」というマイナーなオペラも上演されており、こちらにも行ってきました(ドイツ語のオペラですが舞台はパリです)。マイナーな作品で、まさか生で聴けるとはという感じですが、私はCDを2種類も持っていたりします。

  さて、パリ・オペラ座で開演を待っていると劇場内に携帯電話のけたたましい音が鳴り響きました。と言っても、すぐアナウンスの声が続いたので、フランス語の分からない私でも携帯電話の電源をお切りください(切り忘れるとこんな風に劇場内に呼出し音が響いてしまいますよ)というお知らせなのだなとすぐ分かりましたが。アナウンスはフランス語に続いて、英語(内容は予想通りでした)、次に(おそらく)イタリア語で繰り返されたと思ったら、最後は日本語でアナウンスされたのには少しびっくり。

  時代を近代に移し、所々に昔のサスペンス映画へのオマージュを散りばめたセンスのよい演出とケント・ナガノの生き生きとした指揮で「カルディヤック」を楽しんだあと、オペラハウスを出ようとした時、どこかで見た外国人の男性の顔が目に入りました。

  出口に向かううち人ごみでその姿を見失ってから思い出しました。2年前にドイツのホテルでドレス・コードについて質問したあの人だ。いや、まさか、ドイツで偶然話しかけた人にフランスでばったり会う可能性がどれだけある?
  オペラハウスを出て地下鉄の駅に降り、改札に向かうと、母親らしい人と話している小柄で丸顔の男性が目に入りました。ああそうだ、間違いない。彼はドイツでも母親らしい人と一緒だった。
  思わず「失礼ですが、2年前バイロイトにいらっしゃったのでは?」と声をかけると、「そうだ、お会いしましたね!わざわざこの公演のためにパリまでいらしたのですか?」「あなたがパリジャンとは知りませんでした!」「今日の公演はとても良かったですね。そうそう、私は今年もバイロイトに行ったんですよ。」
   改札の前でしばしオペラ談義。「いずれまたどこかのオペラハウスで!」と再会を期して?彼と別れました。名刺を持っていなかったのが悔やまれます。パリ・オペラ座で名刺を渡すような場面は想定外でしたので。

  ドイツ・オペラの好きなフランス人が、隣国ドイツのバイロイトを訪ね、地元のパリで珍しいドイツ・オペラがかかればその初日に行くことは自然なことでしょう。
  ワーグナーの好きな日本人が、バイロイトを訪ね、パリを訪ねた際に珍しいドイツ・オペラに行くこともまた十分自然なことでしょう。

  こんな二人がまたどこかのオペラハウスで会う可能性もまんざら少ないこともないかもしれません。
再会した際には必ず報告いたします。

寄稿者:H.K.